レポート|HOUSE VISION 2012 SYMPOSIUM BEIJING

ここでは、中国の改革開放以降の間取りや暮らし方の変遷や
住み手のデザインへの意識の変化等を読み取り、
今後の中国が目指すべき暮らしやデザインの在り方を見い出した。
特に大量につくられる政府住宅のあり方を考えることは、
今後の未来の暮らしを決めていく重要な第一歩があると考えたからである。

周 燕珉
プレゼンテーション

中国の住宅間取りタイプの変化とその要素

周 燕珉|清華大学建築学院 教授

日中の住宅の大きな違いは、大きさとファシリティ。中国では面積は大きく、内装も高価だが、人間にはやさしくない。日本の間取りは合理的で、収納などもきめ細かい。
日本の住宅デザインは空間の利用比率が高く、間取りが良い。感覚的に小さいとは感じない。長い目でものごとを考えているという点で中国より進んでいると思う。
改革開放以降の中国の間取りの変遷について。当初は住宅配分制度で、一人当たりベッド一つが目標。貧しかった。ソビエトの設計標準を導入し、間取りも合理的。トイレと浴室は共用。80年代になってダイニングが別になる。トイレも独立。洗濯機を置く場所はなかった。1998〜2003年、中国で分譲住宅が商品化されるようになった。住宅配分はなくなり建築ラッシュとなる。ここでの目標は、一人一つの部屋。
しかし、土地の値段はうなぎ上り。大型の住宅が増え(平均141平米*)値段が高く、手の届かない人も多かった。

*中国の床面積表示は共有部分も含む。専有面積は表示のおよそ7割。90平米は日本の専有面積に換算すると63平米程度。

そこで計画されたのが2006年の「国六条」である。すべての都市不動産が開発するものの70%以上が90平米以下でなければならないという決まりだ。
中日両国は、これからの住宅を一緒に考えていかなければならない。違いも多いが、たくさんの共通点もあるかもしれない。中国でも老齢化のスピードは早い。宅配の発達などの社会構造の変化が間取りにも大きな影響を与えている。将来のことを考慮に入れた長い目での設計が、いま中国では求められている。

王 昀
プレゼンテーション

現代的な住まいをつくる

王 昀|建築家・北京大学 准教授

80〜90年代に中国では住まいの状況が大きく変わった。経済発展に伴う開発ニーズが高まってきたことも否めない。同時に、80〜90年代にかけて放映された人気TVドラマの中に登場する家のスタイルは、人々に大きな影響を与えた。
7つの代表的な事例を紹介する。
日本では建築家と施主が1対1で住宅をつくるが、中国の政府関連住宅の場合は、政府からの依頼であり、使用者である人との間にはデベロッパーが介入する。購入者は内装業者を雇うので、内装業者だけが消費者と接触できる。住宅が好きでいろいろ考えたい人、住宅は豪華ならいいという人との間にギャップがある。
最近の人気ドラマ「奮闘」(2007年)は現代の若者たちの成長物語で、すべては機能性に溢れ、贅沢さや豪華さは見当たらない。中国の80〜90年代生まれは、もうスタイルを気にしない。そのかわり、自分の暮らしがより快適になることを目指す。住宅は見せびらかすものではなく、自分の生活に合ったものである。クオリティのある生活が未来に生み出されるよう願っている。

張 静
プレゼンテーション

中国の内装付き住宅の潮流

張 静|高級エキスパート室内建築士、中国建築装飾集団設計研究院環境建築規劃設計院 院長

内装とインテリアの違いは、内在的な構造性と、表象的でアート的な美意識にある。
改革解放初期は、ただ住むところがあれば良いという状況だった。経済発展とともに生活水準が向上し、私欲を満足させることに夢中になった。
しかし住宅産業の発展は不均衡で、バブルのように膨らんできた。中国の内装産業は、専門的な領域から派生してきたのではなく、小規模内装業者から成長してきた。ある村の全員が来て内装業に従事するケースが多々ある。技術がシステム化されていない。しかし一方で、内装業の発展が求められている。
住宅産業は産業化に向かう。一般市民、デザイナー、政府関係者の間には考え方の大きな違いが見られる。考え方の開きは市場に悪い競争を引き起こす。解決の糸口を見つけ、協力しながら、新しい競争を生み出す必要がある。
一般常識として、住宅を買ったら内装をしなければならない、とみな思っている。その家でどう暮らすのかではなく、まず内装のことを考えることが習慣になっている。しかしこの習慣は理性的なものではないと思う。
内装付き住宅は、内装による汚染問題を解決できるだろうか。人は自分の好みに合わなければ躊躇なく内装をやり変える。そうすれば結局、内装付きだろうが、二次汚染、三次汚染が生じる。また、すべての内装材料が環境に優しいかどうかという問題もある。
これから消費者は内装するために内装するのではなく、理性的な考えのもとに行動するだろう。われわれはなぜないそうしなければならないのか、どこまで内装するのかなどについて自問しなければならない。