レポート|HOUSE VISION 2012 SYMPOSIUM BEIJING

中国、日本両国の議論を踏まえ、さらに両国の知恵を
交差していく中で、中国の未来の暮らしに日本の経験や地検が
どのように活かせるのかを探っていった。日中両国のみならず、
アジアの暮らしの未来を考える契機となった。

村松 伸
ショートプレゼンテーション

中国のモダニズム(現代主義)受容について

村松 伸|総合地球環境学研究所 教授

1920〜30年代に中国もモダニズムを受け入れているが、継続しなかった。
その理由は、1.歴史的な背景(中国の装飾は当時の世界で非常に評価されていた)、2.外国への抵抗(日本には抵抗がなかった)、3.米ソ冷戦の影響(モダニズムはソ連で批判された)、4.中国の建築家たちはアメリカに留学し、当時欧州からアメリカを経由したモダニズムを学んだ(日本はヨーロッパに行ったので、モダニズムが直接入ってきた)、5.生態的な環境(素材の使い方が異なる)。
1930年に中国にいた北欧のインテリアデザイナー、グスタフ・エッケは、北京で家具を集めて書籍を出版。この影響はデンマークのモダニズムの椅子に現れており、それを経由して日本のモダニズムの建築家にも影響を与えている。モダニズムは、必然と偶然の関係によって、日本では受け継がれ、中国では途絶えた。モダニズムはフォルムではなく、批判性と提示にあると思う。環境、身体性、美しさ、デザイン、地球環境などを批判すると同時に提示するのは21世紀的モダニズムである。
日中が21世紀のモダニズムを共有するのは良いこと。これが途絶えないよう、育てていきたい。

ディスカッション

周 燕珉
これまでの日本の経験は、中国がこれから直面する問題へのヒントがあると思う。
王 昀
UR都市機構の住宅史、とくに70年代の日本のピークの話は、今中国で始まろうとしている保障性住宅へのヒントとなると思う。
難波
日本は島国で民族国家、中国は大陸で多民族国家、もっと言えば、帝国である。 「近代化」という同じ言葉でも異なるのではないか。最も知りたいのは、家族の問題。解体してバラバラになっていく家族をどう考えるか、というところから出てきたのが一室空間。緩やかな共同体としてルーズに住む。中国ではどうか。
王 昀
コミュニティのつながりが少なくなったのは90年代。それまでは四合院でコミュニケーションがうまくいっていた。緊張関係が生まれたのは、商業化された住宅ができてから。経済が共通点だが、文化的には共通意識が持てていない。経済を中心としたコミュニティと、昔のような文化的なコミュニティとは違う。
村松
「住宅リテラシー」の話だと思う。問題点を認識すること、ヴィジョンをつくること、ヴィジョンをどう達成するか、というこの3つがリテラシーを形成するための基本だと考えている。問題点があるという状況は認識されているが、どこにヴィジョンがあるか、建築家としての提案はどこにあるかが重要である。
土谷
家族のかたちが変ってきて、コミュニティはそれをどう解決するのか。それに対して建築の回答が起き始めているかもしれない。
難波
現実の空間とネットの空間がずれていくという状況は確かにあり、日本でも中国でも同じだと思う。建築あるいは集合住宅の根本的な働きは、じわじわとその人たちのライフスタイルを変えていくものだ。コミュニティも同じ。だから、広場をつくっても使われないから意味がないのではなく、10年くらいかかるものだから、提案しつづけなければならない。たとえ2年しか住まない仮設住宅だったとしても、それでもコミュニティの提案をしなければいけない。建築の問題は時間をかけること。空間が人に与える影響は、時間というものが決定的な尺度。文化というものは基本的にそういうものだし、住宅のリテラシーもそういうものだと思う。

質疑応答

Q
日本では若者に未来のどういう住まいが幸せをもたらすかというヴィジョンを与えている。中国の建築家たちが中国人にあうライフスタイルを提供し、住宅で新しい住まいの夢を与えることができるのではないか。
デザインにできることは、問いかけること。そこに生まれる「なるほど」という気づきが重要だ。デザインは覚醒させる力を持っている。長い間、人の営みに蓄積されてきた知恵から新しい知恵に辿り着いた時、初めて新しい知恵に気づく。みなが気づくことで、結果として新しい世界に住んでいたというふうに進化していくのだと思う。
王 昀
日本の910×910という寸法は、狭い空間をコンパクトに効率よく利用できる寸法だと思う。中国でもそういう寸法があったらいいと思う。
周 燕珉
中国のマスコミは豪華さを宣伝する。しかし住宅はそもそも住むためのもの。ライフスタイルに合ったデザインが必要だ。
Q
70年代生まれは路地で遊べたが、今の子はできない。物質的な欲望よりも精神的な欲望を持つ。住宅は心のものだと思う。
土谷
本当に住宅は心のものだと思う。私たちもみなさんの理想の暮らしはなにか、とお聞きしたい。同じような問いを見つけ出すところから始めたい。良い問いを見つけることが第一歩だと思う。理想像という答えがあるのではなく、そこに向かってどう問いかけられるかだ。

まとめ

こういう論議を広く、日本、中国、アジア全体で一緒に考えていくのは本当に有意義である。これは始まりなので、今後はさまざまなかたちで広げていきたい。