HOUSE VISION研究会報告|中国
第2回中国研究会「HOUSE VISION in CHINAの
活動報告と訪問調査結果から」2012年3月1日(木)
HOUSE VISIONの第1回中国研究会が開催された。中国から、清華大学建築学院の周燕民教授、中国社会科学院の劉志明氏のプレゼンテーション、日本から原研哉、東京大学総合地球環境学研究所の村松伸教授がプレゼンテーションを行い、参加者の中国建築装飾雑誌・居住装飾雑誌の王永強氏、中国建築装飾協会の高世彦氏、恵達公司の藺志傑氏、李宏武氏、北京で設計事務所を開設している松原弘典氏、経済産業省クールジャパン室の谷査恵子氏らを交えてディスカッションが行われた。
【中国研究会概要】 事務局・中国:孫群(北京デザインウィーク副ディレクター)/事務局・日本:楊帆、鄧宇(日本デザインセンター北京事務所)、青山周平(北京在住建築家)/参加建築家:張永和、王昀、王輝、梁井宇、周燕珉など/参加企業および候補:万科集団がメインスポンサーとなる。/研究会開催場所:北京、上海、深圳
開会挨拶
いかなる家に住むかというのはわれわれの誇りの問題である。誇りを持って暮らせるかどうかは、文化にとっても経済にとっても大きなことである。HOUSE VISIONは、大きなアジアの時代が来ようとする時に、日本や中国、あるいはその他の国々の知見、経験や知識を携えて、アジアの大きな未来を一緒に考えていこうとである。われわれは近代を西洋から学んできているが、未来は必ずしも西洋文化の方向に行くわけではなく、足元にあるアジアの文化というものによって大きな未来が花開いていくと思う。 日本は戦後しばらく、アジアの中ではいち早く高度成長を迎えたが、だからといってすばらしい住宅に住んでいるわけではない。日本が経てきた諸問題を披露して、これから大きく成長しようとする中国の家の開発に役に立てれば有意義に思う。 本会議は、日本の住宅産業の未来の新しい住宅の形をつくっていこうとする企業の方々とともにアジア初の住宅の未来を一緒に考えていくという機会。この思いを皆様とともに未来に向かって共有できるということを期待したい。 家の品質は誰が決めるのか。土地から生まれてくる製品の品質は何によって決まるのか。答えは企業の力によって決まるかもしれないし、建築家、あるいは設計者の力によって決まるかもしれない。最も重要なことは、ある地域に生まれてくる産品の品質というのは、その土壌に生えた木になる実のようなものだということだ。実の品質を決めるのは木、土壌の品質はその家の品質を決める。その土壌というのは国、あるいはその経済文化圏に住んでいる人々の欲望の品質だ。どんな希望を持って、どんな希求を持って日々を暮らしているかである。 生活者の欲望の品質に対して影響力を行使できるのがデザイン・設計の意味である。HOUSE VISIONは、どう家をつくるかという間取りや販売効率の問題ではなく、次にどういう希望をもって進めるかという土壌に影響する。 家とは、建築や住宅販売ではなく、今日では、エネルギーの流通拠点であり、パーソナル・モビリティの発進拠点であり、日本の工業製品の未来であり、ハイテク化して賢くなった家が人間とどう付き合うかということである。同時に、DNAの中にある伝統文化を見いだすこともわれわれの課題である。
日本からの参加企業の自己紹介
各社、中国企業に対して各10分ずつのプレゼンテーションを行った。
(*会社概要の詳細内容は割愛。コメントのみ記載)
LIXIL 小田
LIXILは「LIVING」と「LIFE」を掛け合わせ、「link to good living」を表す。世界中の人々の住まいと暮らしのあり方をよりよくしていこうというコンセプトのもとに成立した、建築資材や設備機器の総合メーカーである。昨年の東日本大震災の後、日本では人々の考え方が変わってきた。徹底した節電、省エネで、地球に負荷をかけずに快適な暮らしを目指す気運が高まっている。高齢化対応住宅についての問い合わせも増えてきている。より穏やかな暮らしができる住まい。温度差が非常に少ない安全な生活ができる家。便利、快適、エコ、高齢化社会に対応できる住宅。皆さんと交流し、さまざまな案件で協働していければと思っている。
野村不動産 瀬田
中国における事業の展開可能性について、1年半にわたり市場調査をしてきた。多くの人々が住宅に不満を持っていて、高品質の住宅に期待していることが分かった。同時に、環境保全や省エネに積極に取り組みたいという声も高い。そこで中国と日本のデベロッパーが手を組んでそれぞれの強みを生かし、高品質の住宅をつくる意義は大きいと思う。中国のデベロッパーは土地入札、現地消費者に合う商品の開発、中国ビジネス規制に詳しいと言った強みを生かし、日本のデベロッパーは、丁寧なデザイン力、省エネ技術、品質管理、事業推進などの面において力を注げば、共同で新しいブランドを生み出せる可能性も十分にあると思う。さらに研究していきたいと考えている。
都市再生機構 滝川
日本住宅公団は1955年に発足し、その後社会需要に応じて組織が変わり、2004年に現在の都市再生機構になった。1世帯1住宅を目指した発足当初から、60年代後半からの大量供給、70年代後半から大きく変化した消費者ニーズに対応した量から質への転換、80年代後半から都心居住への回帰や居住環境の改善、90年代後半の少子高齢化対応と変遷し、近年では既存の建物の再生・活用に取り組んでいる。
住友林業 佐野
日本の国土の7割は森林で、日本では国策として国産材をの使用を薦めている。近年、潤沢な木材資源を利用して、環境側面も含めて改善していこうとする動きが出てきている。木材建造物は地震や火に弱いというイメージを払拭する技術面も整っている。木を植え、木を使って建物をつくり、再び木を植えていくことで、低炭素社会の実現に事業全体で貢献していく。さらに、2011年4月から「木化」という部署を立ち上げた。家と家族が触れ合う、玩具・家具・インテリア・食器などから住宅環境/空間構成まで、そして社会環境という意味でも学校などの公共施設に木材利用を広げていく。木材発電も視野におき、循環を見出すような事業を形成していきたいと考えている。中国での住宅事業については、2004年より進出しており、年間100棟ペースで木造住宅の施工および提供を行っている。
リクルート 藤本
「suumo」というメディアは、新築、中古、賃貸、リフォーム、リゾートまでを包含するメディアである。人が自分自身のライフスタイルを選ぶときに必要なものは情報である。我が社のビジネスモデルは、生活者と企業をつなぐマッチング・サービスである。雑誌、フリーペーパー、インターネット、リアルイベント、モバイルなどを通じて、新しいライフスタイルの提案や新しい価値観を提供することによって、住まいに対する啓蒙活動を行っている。また、企業側の効率的な集客というニーズに対しては、丁寧な現場への取材活動、物件の強みを把握し引き出すことによって、物件に合ったカスタマーをクライアント側に呼び込むことができる。 よりよい住まいを求めて、もっと自由に売ったり、買ったり、貸したり、建てたり、手を入れたりできる世の中を目指して、幸せな個人や家族をもっと増やしていきたいという思いで事業展開をしている。
ムジ・ネット 川内
無印良品というとシンプルを思い浮かべると思うが、シンプルだけ目指しているわけではなく、合理性やものの本来の意味などを追求していった結果、シンプルになっているということだ。私たちはいつもこの原点に立ち戻り、次の新しい未来を築いていくことを心がけている。無印良品はたくさんの商品を出している。豊かな暮らしそのものを入れる容器として、無印良品は家を出すべきではないかということから、「無印良品の家」をつくり始めた。コンセプトは、「スケルトン&インフィル」。つくり方ではなく暮らし方として、「スケルトン」と「インフィル」を分けて考えていこうということである。 ムジ・ネットは、無印良品の中で、店舗では扱えない生活空間そのものを提案し、新しいモノやコトの開発・販売を行う会社として2000年に設立されて以来、ずっと賢く豊かに暮らすことを考えている。ぜひ中国でもお手伝いができたら大変光栄だと思う。
中国からの参加企業の自己紹介
各社、簡単な企業紹介を行い、中国がいま住宅に関して解決しようとしている課題、日本側との接点の可能性についてのコメントをもらった。(*会社概要一部省略)
万科上海エリア本部 伝志強
日本側の方々のお話を聞いて、日系企業が中国の住宅産業あるいは生活全般について、まだ理解していないところが大いにあることが分かった。中国は広いため、地域によって状況が全く違うケースが多々ある。そこで、日系企業の方々から質問を投げて来て欲しい。また、われわれの方からも日系企業と日本のデザイナーに要望を出し、互いに理解を深めていきたい。
中投発展有限公司 王玉龍
業務範囲は、都市建設・インフラ施設の建設・老齢化社会における健康産業への投資・株式投資・プロジェクト投資・マネジメント・コンサルテイング・業務管理コンサルテイング・都市情報化建設・投資・ビジネスサービス。現在、北京、天津、遼寧、海南および地方政府と協力し、土地の一級開発と都市化建設業務を展開している。 中日の不動産業は大きく異なっている。日本は70年代にさまざまなスタンダードをつくり、建築と部品備品のモジュールなどを完全にマッチさせた。一方、中国では、そこまで進んでいない。われわれはそれらの部品備品をいかにして建築にマッチさせるかに努め、それらの基準化を研究している。保障性住宅の基準をもつくっている。本日のような交流が中国の高度成長に非常に役に立つと思う。またこのような交流を続けて欲しい。
沿海地産 呉昊
正式名称は沿海国際ホールデイングス有限公司。業務はファンド、投資、不動産、健康住宅。業務展開の地域範囲は大連、瀋陽、鞍山、北京、上海、武漢、東莞、仏山。毎年の着工量は150万平方メートルに近い。商品は、健康住宅が中心である。 北京で現在展開中の「麗水佳園」プロジェクトでも、健康住宅に関する技術を取り入れている。健康住宅は、まず省エネ。風力発電や太陽光発電(実用できるものもあれば、まだできないものもある)、地熱ポンプ、屋上緑化、壁化緑化、雨水回収システムなどを行っている。
北京八大処房地産開発有限公司 劉艳妮
弊社は国有ホールデイング公司である。主な業務は住宅不動産と商業不動産。活動範囲は北京と天津。業界大手とは言えないが、発展の観点から多くの土地を所有している。 本日、日本側の方々のお話を聞いてすごく良かった。私は中国建築士連盟のメンバーでもあり、連盟では2012年は住宅産業化をテーマとし、3月に住宅産業化専門会議を開催する。日本で住宅産業化をテーマに交流する計画も立てている。また、北京の昌平にある科技園(サイエンスパーク)で小さなエコパークをつくる予定。興味のある企業やメーカーがあれば話し合いたい。
唐山惠達陶磁集団有限公司 蔺志傑
恵達(HUIDA)は浴室衛生器具の製造メーカーで、浴室衛生器具部門と住宅部門を持つ。いまや中国国内浴室衛生器具業界のトップである。中国は今いろいろな面において日本に学ばなければならない。特に繊細なところ、丁寧なところだ。2011年、恵達は数々の日系企業と交流し、多くの日本人デザイナーとのパイプをつくった。日本人デザイナーとモデルハウスも制作した。清華大学の周燕珉教授を始めとする専門家たちとともに小型住宅の研究開発に取り組み、不動産業者と組んで、間取りの設計から全ての製品供給ラインのデザインに至るまでソリューションを提供している。 私たちの目的は中国不動産業界におけるすべての産業チェーンを整理して、共同で省エネ、環境に優しい、高効率かつ低価格の住宅を開発し、中国の住宅産業化に貢献することにある。
北京西都房地産開発有限公司 楊化明
前身は1981年設立の「西城開発」。主な業務は1、2級の不動産開発。1995年に中国国内ベスト100社の中のベスト10に選ばれて以来、31年選ばれ続けている。住宅においては、老朽化した住宅のリノベーションを中心とし、保障性住宅にも取り組んでいる。今まで最も大きいプロジェクトは現在進行中の新街口西里の老朽化住宅のリノベーション(計100万平米、現在約70万平米完工)。日本の方々とは、小型住宅について交流を行いたい。小型住宅は、これから保障性住宅が最も求めるものとなる。
中糧置地集団 張暁偉
中糧置地集団は、中糧置業、中糧地産,中糧ホテル事業部、海南亜龍湾公司など、中糧グループ傘下の不動産関係事業を統合して2011年に設立された。主な業務は、商業施設と住宅。成功事例は北京にある2つのショッピングモール「大悦城」。今後中国全土に25〜30ヵ所の「大悦城」を建設していく予定だ。 今後の展開は、商業施設事業は「大悦城」を中心とした産業チェーンの構築。住宅事業のほうではグリーン建築を進めている。アメリカのLEED、日本のCASBEE認証などを得て、人々により快適な住居、環境に優しいグリーンの生活空間を提供していきたいと考えている。
韓建集団北京華正房地産開発有限公司 崔事章
韓建集団はもともと北京の南にある房山区の一企業で、2006年から不動産に進出して拡大してきた。日本の不動産開発の話を聞いて勉強になった。うかがいたいことがたくさんある。風水はどう取り扱っているのか。屋上の防水処理はどうしているか。中国人の住宅に対する需要や考え方は、韓国人や日本人と大きな違いがある。日系企業の中国の住宅ニーズに調査は不十分だと思う。中国人には「もったいない」という考え方がある。30平米の家は日本人にとってはまあまあいけるかもしれないが、その平米数では「家」という根本的な需要を満たすことができない。30平米ぐらいの小型住宅の間取りはどうなっているのか、靴を脱いで上がる習慣をどう維持させるのか、トイレは、食事するスペースは……そういうことについて日本側の方々と交流を深めたい。
華潤置地北京株式有限公司 高文龍
最近われわれが展開し始めた付加価値サービスは、ダブル収納空間を実現したことである。我が社のすべての商品に取り入れられている。これはイノベーションに取り組んだ一つの成果で、数多くの国家レベル特許を取得している。客先からの評判も良い。ダブル収納空間というのは、主に玄関、トイレ、キッチンなどの空間に利用する。もちろん室内に独立の収納空間がある。このような一貫した付加価値サービスが、改善ライン(90平米ぐらい)の間取りから、品質保障ライン、100〜200平米ぐらいの一戸建て、さらに最近開発した別荘まで、グループのすべての商品生産ラインに取り入れられている。ダブル収納空間について日本の専門家と交流を深めて行きたい。
順天通房地産開発集団順天通装飾公司 張軍勝
弊社は国レベルの不動産総合開発許可を持っており、「都市オーペレーター」に似ている。北京の政府保障性住宅最初のプロジェクトの一つを手がけ、保障性住宅の開発、研究、北京市全体の保障性住宅に関する基準作成に寄与している。企業は既存の開発プロジェクトの下に商業施設やハイエンド案件の運営に取り組もうと考えている。例えば御湯山別荘地(中国国内最大の別荘プロジェクト/予定は1,400棟)。これから、日本の専門家と住宅、そしてライフスタイル、住宅付属施設、部品備品に関して交流を深めていきたい。
当代節能置業株式有限公司 張林
2000年に設立。代表作は東直門「万国城」、北区には「当代MOMA」(中国国内初めてLEED-NDの認証を取得した物件)。弊社の強みは省エネで、現在携わっている案件には、太原、陽泉(西北地域)、中南区域に湖南、長沙、南昌、九江、仙桃など10数プロジェクトがある。 日本にはたくさんの木造建築があるが、火に弱いイメージが強い。日本の防火措置はどう講じられているのか。耐火材を利用しているが、その耐火材の使用について詳しくうかがいたい。もう一つ、人間に対する研究が進んでいるようであるが、例えば、どういう温度や湿度で、人間が快適と感じるのか? その辺についても深く交流したい。
ディスカッション
日中の自己紹介を受けて、HOUSE VISION世話人土谷貞雄の司会のもと、オブザーバーも含めた出席者全員で意見交換が行われた。
土谷
中国の側に伺いたいことが2つある。
1. 中国の方にとってコンパクトとか小型という時の大きさはどのぐらいか。日本にとって70平米は結構普通で、90平米、100平米は大きいほうである。中国の方にとっては、150〜200平米が大きいほうで、60〜60平米は小さいのではないか。
2. 内装付き住宅によって、ライフスタイルとかスタンダードなど、大きく変わる点がある。内装付き住宅をつくる時には設計は変わってくるか。
オブザーバー(女子大学生)
大学で建築を学んでいる。大学の学生寮は4人一部屋で20平米程度。今北京や上海などは物価が高く、賃貸では新卒の学生にとって負担が大きい。よって、ほとんどの学生はシェアハウスで暮らしている。だいたい一人当たり20〜30平米ほどの面積しかない。昔は確かに100平米ぐらいに一家族が普通だったが、物価が上がるにつれ、面積も少しずつ縮まってきている。 二つ目の質問については、建築設計側からすれば内装付き住宅が望ましいが、デベロッパー側からすれば個性のない状態のほうが売りやすい。内装付きでも家を買うほうが個性を求めて、結局自分で自分の好きなように改装してしまう。価格の比較的安いほうが売りやすいの現状である。
万科上海 伝志強
面積には注意が必要である。中国の面積はほとんど建築面積、日本のは延べ床面積。従って、日本の40平米は中国で計算するとたぶん60平米。誤差がかなりある。中国での40平米はワンルームマンションだが、日本の40平米は3DK。現在、小型住宅が増えつつあり、万科でも今15平米の家を考えている。今後20平米のワンルームマンションが普及するだろうと思う。自分が10年前設計したシングル用住宅は30平米ぐらい。かなり売れて、いまでも好評。これから単価の低い住宅が増えるだろうと思う。若い人もどんどん小型住宅を受け入れるようになるだろう。現在、新婚カップルが最初に購入する住宅はだいたい90平米。いま一番小さいのは深圳。上海、杭州でもこれから小型(2LDK)の方にシフトする。 内装付き住宅については、中国でスケルトンが売れることは事実だが、今後エネルギー問題も絡んで、徹底的に内装付き住宅を考え直していく必要がある。一戸建てのダウンハウスが内装付きになるかもしれない。今後10年くらいは、スケルトンは続くと思うが、値段が安く、面倒くさいことをやらなく済むなら、内装付き住宅は、特に大都市で拡大していくだろう。
原
家のつくり方は学校では教わらない、社会の進歩が早くて、両親の経験が参考にならない。コミュニティが変化し、技術の進化によってテレビや電話の使い方が変わる。だから家のつくり方は教えてもらえないものだ。 では、なにが教科書になったかというと、日本の場合は不動産会社が配るチラシだ。そこに書いてあるLはリビング、Dはダイニングだと学ぶ。それが唯一の教科書だ。つまり日本人の欲望の形は不動産会社が配るチラシでデザインされてしまった。これは日本の高度成長期に発生した問題ではないか。いまの中国の人たちはどこで「家」というものを学ぶのだろうか。
オブザーバー(若い男性)
中国では、新卒の若者が知りうる家の情報は限られている。彼らは主にネットから情報を得る。例えば、中国国内の不動産関連ポータルサイト「搜房」や「新浪(sina)」、「百度楽居」など。 中国の不動産販売はまだシンプルで、現場見学、モデルハウス見学、モデルエリア見学などだ。一方、ネット上では映像や360度でモデルハウスが見られるし、多くの不動産業者はミニブログを活用している。
浙江万科 丁洸
情報を得るための最も効果的な手段は、販促プロモーションだと思う。しかし、住宅は一般の生活商品と違って、最終的に人々の生活ニーズをどう満たすかというところに価値がある。どう使ってどこからどのような欲求が満たされるのかが重要。そのような情報を得られるルートはまだない。生活に対する理解によって認識が変わると思う。
万科上海 伝志強
原氏は非常に重要な問題を提出された。ヨーロッパや北米では、住宅でどう暮らすかということを暮らしの中で得ていく。日本では教わらない。しかし、日本に比べ中国はもっと遅れている。中国の子どもたちはいま、勉強以外何も考えていないように見える。大人だって住宅に対する知識の蓄積が乏しい。彼らが生きてきた時代はリビングがなく、寝室がリビング兼用、共有キッチン、共有トイレ。だから、面積の概念とか贅沢な内装とか、現在の流行とかの情報はほとんど口コミで得ている。デベロッパーがどういうふうに消費者を正しい方向に導くのかはいま課題になっている。原氏がいま言及された問題は未来において大変重要な意味を持っていると思う。
京漢置業集団 趙四海
その意見に賛成だ。いま中国では、飛び交う情報が混沌としているのは情報基準に問題があるからだ。90年代に中国人の住宅に対する考え方が大きく変化した。広々としたリビングが求められるようになったことだ。広いリビングは持ち主のメンツに関わる。しかし、中国人のライフスタイルは時代とともに変化している。一級都市、二級都市において、いまどんな住宅が人々の生活に合っているのかは考えなければならない。結婚後の住宅が必要だと思う。
当代節能置業 張琳
昔は4世代や3世代が一緒に住むのは珍しくなかったが、いま核家族が変わっていっている。子どもが結婚したら、両親から離れていくのが普通になっている。従って住宅に対するニーズも変わった。現在、住宅を買う主力は誰か? 住宅を誰に提供すべきか? 現代において住宅を買う主力のライフスタイルはどうであるのか? その主力の購買意欲をどういう方向に導くのかをしっかり分析して対応しなければならない。表面理解では不十分だ。中国は広くて、南から北まで、気温・気候も違えば、生活様式も異なり、民族も多い。だから住宅に対するニーズが多様になるのだと思う。多様化に応じることは不動産業者にとっての社会責任のようなもの。いかに美しく快適な住宅を提供できるのか、これはわれわれの使命でもある。
韓建集団 崔事章
私も今後小型住宅が人気になると思う。内装付きだと利益を捻出する余地がある。だが、スケルトンのほうが消費者に受け入れられやすい。今後スケルトンの小型住宅が主流になるのではないかと思う。年寄り、若者の暮らしに適した平米数を分析する必要がある。
土谷
これまでの意見を整理する。伝氏から教示いただいた中国と日本の「小さい」のイメージがかなり違うことが分かった。小型住宅にはどれほどの平米数が適切なのか。ちなみに日本の供給の平均面積は70平米くらいだが、中国の供給面積の平均はどれくらいか。
万科上海 伝志強
統計資料がないが、政府では3年前から70%以上の新築住宅が90平米以下という政策をとっている。90平米なら開発が許されるのだから、それがある意味での平均といえるだろう。
土谷
つまり、90平米は日本でいうなら70平米。日本の平均供給面積とこれから中国側が目指そうとしている供給面積はほぼイコールなわけだ。しかし、市場を考えれば、もっとコンパクトな広さの家を供給していくほうがいいかもしれない。そのため、さまざまな暮らし方を考える必要がでてくるのではないか。
リクルート 藤本
広告は、「これが格好いい」という物を消費者が徐々に自分の中でつくっていくものだ。現在の中国の消費者は、どういう物差しで判断しているのか。部屋数が多いほうが格好いいのだろうか。
土谷
政府住宅のプロトタイプ開発の基準は何か。また、デベロッパーとして暮らし方の基準になっているものはあるか?
浙江万科 丁洸
良い住宅は良い生活を手に入れる重要なハードウェア。ただ、良い住宅を手に入れても良い生活ができるとは限らない。そこにひとつ、基準喪失の問題がある。確かに中国はこれまでの10〜20年、経済が急速に発展して来た。それに伴ってライルスタイルも大きく変わって、いまは判断基準が非常に多次元になっている。各地域の発展状況と関係があるのかもしれないが、数多くの価値観が生まれてきている。何がよい生活なのか。良い住まいとは何か。その判断基準はさまざまだ。
原氏の話から一つ気付いたことがある。中国は長年急成長して来たが、生活様式はまだ発展途上で成熟していない。よって、良い生活に対して公平な判断ができない。それをいい方向に導くには社会全体の教育が必要不可欠だ。環境意識もある。面積の大きい小さいではなく、部屋数でもない「居住品質」というものが重要だ。「品質」とは、住宅そのもの、設備、環境、また宅地の企画など総合的な問題になる。社会各方面の努力で持続可能な教育システムを構築していくと、それがいつか良い生活とは何かを教えてくれるのではないだろうか。
当代説能置業 張林
「衣、食、住」の中で「住」はただ生活様式の一部でしかない。生活の良し悪しを判断するには個人の価値観が影響する。現代社会は個性が溢れ、他人にどういう生活が良いかを教えるのは現実ではない。住環境を通して、人を良い生活認識の方に導いて行くのが妥当であると思う。個人の価値観を導くこと、これは大きな課題である。
オブザーバー(若い男性)
日本人と中国人はさほど違わない。住宅のニーズにおいても議論する余地がない。実際のところ、中国の住宅商業化はわずか10数年。先に豊かになった一部の人たちが資源を奪い合った10数年でもある。これを前提に考えれば、人間本位で住宅を設計することがまず不可能に思える。先に豊かになれば、人格形成の観点からでも必ず過剰なものを手に入れたくなる。住宅を買う心理にも優越感(自己満足)が働いている。こんな時に建てられた住宅の多くは自然淘汰の運命にさらされているだろう。
土谷
格好良さの話と教育の話が出たが、さらに歴史というのもあるのではないか。原氏は日本人の美意識の延長に日本の未来があると言っているが、中国人にとって、歴史的に中国人らしい暮らし方も格好良さの規範に入れられるか。
万科上海 伝志強
格好いいというとステータスとか、面子の問題とかになるが、これは微妙に違うと思う。原氏のそもそもの出発点は、本当に洗練された、デザインが良くて本質なものはいいという、そのような格好良さだ。デベロッパーの立場からは自分の商品を格好良さのほうに導く。しかし、マーケットはそんなに甘くない。デザイナーが良いと思う格好いい物をつくっても、全く売れないとなると、どうしよう?となる。以前、ある有名なデザイナーがマンションを設計した。当時はスケルトンだった。全く売れなくて、皆はそれが住宅じゃないと言い、安くしても売れないかった。それで結局内装付き住宅に改装して、内装もできるだけ外観のスタイルに合わせるようにした。心配したが、結局前の3倍の価格で売れた。じゃあ、これを他の物件でもできるかというと、できないと思う。このやり方は非常にリスクが高い。しかし、やらなければ前へ進まない。良いものを触らなければ本当の良さはわからない。ただ、どこまでやるのかということが難しい。社会全体から見ると、中国と日本の差はまだまだ大きい。
原
中国の方々に質問したい。玄関で靴を脱ぐかどうか。結構大きな問題だと思う。中国は微妙に陸続きでヨーロッパに近い。中国古代の皇帝は椅子に座っていた。アジアは床に座って過ごしてきた。「座る」のは文化的ではないという見方も確かにある。しかし、そこをどういうふうに考えているのか。現代日本では畳に座る生活ではなく、椅子に座っているが、玄関は15センチくらいの段差があり、靴を脱ぐ。その段差があるかどうかはとても大きい。欧米の人は頑固で脱がない。中国人は脱ぎ始めている。しかし、日本のような段差がない。それは結構大きな家の構造の違いだと思う。その辺の心理状態とか感じをうかがいたい。
浙江万科 丁洸
昔、中国人は外から部屋に入って、そのまま歩いてソファに座った。しかし、いまは玄関に入る前にスリッパに履き替える。昔はリビングの床にタイルを敷いていたが、いま多くの家庭ではリビングの床に木製の床板を使って、その上に絨毯を敷く。人間の足と床が緊密になる。このような生活習慣の変化は、住宅、とりわけ構造の変化をもたらす。家族構成の変化も住宅構造に影響を与えている。二世帯同居の場合、間取り、床材や壁材の選択、バスルームの設備まで変わるかもしれない。子どものいない二人暮しの場合の空間配置、トイレの風通し、キッチンのインテリア(オープン式なのか、クローズド式なのか)、調理道具までいろいろなニーズが変わってしまう。子どもがひとりできたら、家政婦の部屋を用意しなければならない。 万科は長い間内装付き住宅をやっていて、内装付きは普通になってきている。弱点は個性に欠けるところだ。これまでいろいろな個性化した内装付き住宅を試みた結果、これから個性のある内装付き住宅がトレンドになるかもしれないと思われる。われわれ業界内の者は、それを技術面においてサポートすることができるのか。例えば、無印のように家具を利用して空間を仕切るのも大いに可能性がある。
土谷
高級内装のスタンダードの話が出たが、高級内装というのは費用もかけられるし、顧客側が多様性を求める。高級の内装付きをどう絞ればマーケットになるのか。一方、スタンダードの方は多様性というよりは絞り込んでシンプルになっていくのかと思う。高額な内装付き住宅とスタンダードな内装付き住宅の違いは?
韓建集団 崔事章
内装付きについて文化的なところで理解がかなり違うようである。一番簡単な解釈は内装が付いている住宅は内装付き住宅。内装付きにすると社会全体から見て、まとめて調達することが可能になるし、社会資源、建材、内装機材の無駄遣いも免れるし、環境にもやさしい。ただ住宅購入者(利用者も含め)の個性を満足させられるか、というところに欠点がある。
当代説能置業 張林
中国の住宅提供は、①スケルトン、②簡単内装(壁が白く塗られ、床にタイルを敷く。家具を置けば住める)、③高級内装(内装付きのこと。2、3パターンの個性がある内装プランを提出し、お客さんに選んでもらう)、④全面内装(内装だけではなく、室内の生活用品まで全部提供する)の4つに分けられる。中国政府はデベロッパーに内装付きを提供するよう推奨しており、規制や基準も制定中である。全面内装は個性化のニーズを満たすことができない。
オブザーバー(若い女性)
原氏の質問にお答えする。いま都市に住んでいる世帯はほとんど靴を履き替える。昔から靴を替えているわけではない。私の祖父母の世代は靴を替えていなかった。私の親の世帯から少しずつ靴を履き替えるようになった。それは自分で内装をして、部屋を綺麗にしているからだ。一方、パブリックな道路とか公共施設とかでは、いまだに道路に向かって唾を吐いたり、ゴミなどを勝手に捨てる人もいる。自分の家を汚したくないという意味で、靴を履き替えていると思う。
当代説能置業 張林
靴を履き替えることについて、少し付け加える。中国人の大半は玄関の外で靴を脱いでそのまま共用部分に靴を置く。それは普通の住宅に広い玄関がないからだ。それに人の社会的マナーに乏しいのもある(つまり、共有部分が広くて、それは自分の家の一部だと思い込んでいる人が多い)。共有部分に靴入れを置いたりする家もある。
土谷
住友林業は中国で住宅の設計をしている。高級な内装付き住宅、戸建て、別荘をつくられているそうだが、なにか質問はあるか。
住友林業(オブザーバー) 不破
私はずっと日本で住宅の設計をしてきた。8年前に初めて中国の別荘の設計をし始めた。日本の住宅と大きな違いに戸惑いを感じた。日本は核家族が住んでいて、大体家族が3〜4人、多くても5人。中国の別荘スタイルでは、ベッドルームは4〜5つあって、それぞれバスルームがついているというような住宅だ。どのように生活されているか知りたい。それと中国の人が理想と考える水回り、トイレ、浴室、洗面のあり方を少しお聞きしたい。
京漢置業集団 趙四海
基本的な住居ニーズでいえば、中国の住宅購入者には2つのタイプがある。一つは「硬直的需要」。つまり、住宅を買うのは単に自分の生活住居のニーズを満たすだけ。もうひとつは「改善需要」。初めての改善かもしれないし、数回を経た改善かもしれない。数回にわたって住宅改善を図るカスタマーの場合は、硬直的需要を満たそうとするカスタマーの理想よりレベルが遥かに高い。
硬直的需要について少し詳しく触れる。新婚夫婦は住宅が必要だ。子どもが出来ると2LDK、90平米ぐらいが欲しくなる。居間、ダイニング、キッチン、トイレ、寝室が2つが最低限。さらに経済力があればダブルトイレ(一つは客用、もう一つはベッドルームに附属したもの)。リビングとダイニングは面積が限られているので一室に、キッチンは最低限の需要が満たされれば良いということで、よりコンパクトにする。
もうひとつ、中国の住環境で重要な項目は日当りと風通し。特に中国北部では、この2点は絶対条件になっている。市場から見てみると、ここ数年で高層マンションが現れ、低コストを求めて、結構大雑把な開発が行われてきた。地価が安くなるにつれ、いわゆる高層タワー型マンションが出始める。当初は多くの人々が高層タワー型マンションに懐疑的だった。住んだことがないからだ。しかし次第に人気になっていく。高くて眺めがいいからだ。しかし、タワー型の弱点も少しずつ見え始めた。方角の問題だ。日差しに対する需要が満たされない。北方でも夏は暑いので、風通しが悪ければ室内は暑くなる。よって夏はエアコンが不可欠になる。たとえ90平米ほどの小型住宅でも、消費者は風通しが良く、窓が大きいこと、少なくともリビングかベッドルームのひとつは南向きであって欲しいという要望が大前提となる。
中国国内で最初に開発された一部の豪邸(大型住宅を含む)は、本当に自分の生活に合うかどうかのしっかりした考えや規格基準などが全くなかったので、海外の成熟したつくりや間取りをただそのまま引用している。不動産業の発展とともに地価が高騰した時、デベロッパーが考えたのは、限られた土地をより合理的に利用し、カスタマーのニーズに応えることだった。土地が高いいま、高級住宅に対する要求事項の一つはやはり方角。多くの人々が半分以上のリビングや寝室が南向きであってほしいと思っている。また、例えば地下空間やテラスなどを利用して、限られた販売面積の中から住宅の付加価値を見出そうといろいろ工夫している(近年、中国の別荘市場では地下空間が重視されつつある)。最近では、半地下の庭付きの住宅が多く見られる。
こうした住宅は市場ニーズと呼応している。「これが好き」、「これはコストパフォーマンスが良い」、「これが自分に合う」と言った条件が満たされれば、消費者はその住宅を買う。
大型住宅や豪邸の場合でもやはりまず面積を効率よく利用し、それから個性化、機能化を図る。それを大前提に、もう少しお金を払えれば、さらなる付加価値(車庫やプール、広い中庭など)を求める。
オブザーバー(若い男性)
中国の豪邸の定義は非常に難しい。中国は非常に広く、各都市、地域の人が住宅に対する認識が違うからだ。北の瀋陽、東南部の上海と、南の深圳などでは、住宅の向きに体する考え方は異なる。北のほうなら日当りが良くなければならない。一方、深圳では、方角は全く意に介さない。深圳や華南地区では、各コミュニティに露天プールをつくる必要があるようだが、北の方はそういう施設を設ける必要がない。そういう細かいところに対して、定性的な判断は難しい。建築のスタイルについても一概には言えない。日本もそうだろうと思う。日本は地震多発の国だが、それほど地震が頻繁に起こらない地域も多くある。耐震強度も違うと思う。
リクルート 藤本
中国での住宅情報は、信頼性の高いものとして捕らえられているのだろうか。情報の不足感があるようだったら、もっとこんな情報が欲しいなどの話をぜひ伺いたい。
オブザーバー(若い男性)
これはすごく良い質問だ。中国関連業界でずっと検討している課題だ。発信する手段がいろいろあり、世の中にさまざまな情報が飛び交っている。どれが信頼できるか、誰にも分からない。政府はいろいろと管理措置を講じており、情報発信に際してはさまざまな制限を設けている。いま多くの都市に透明度の高い住宅販売ウェブサイトが構築されている。これは政府主導の情報伝達ルートで、そこに掲載される情報の信頼度は比較的高い。一方、デベロッパー自ら情報発信しようとすると、多くの住宅購入者はそのデベロッパーのブランド力、現地での評判、現地における影響力を参考にする。しかし、内容を判断するのは非常に難しい。比較的に信頼性のある情報を発信するには政府の統合による情報発信体制を構築することが必要だろう。
リクルート 藤本
私たちが考える信頼できる情報というのは、情報の更新頻度や情報の正確さによる信頼性の確保である。徒歩1分の1分は80メートルだという基準を当たり前にするというようなことで、消費者がより選びやすくなるような情報を心がけてきた。ただ、いまだにデベロッパーが持っている情報の量と、カスタマーが持っている情報の量と大きな開きがあるために、基本的にはデベロッパーが提供した情報の中で判断せざるを得ない。信頼はできても分からないことが多いのが現実だと思うし、少しでも選びやすい環境を整えていきたいと思っている。
土谷
ここで、ゲストとして出席されている、日本の建築雑誌『都市住宅』編集長をつとめた植田先生に、情報の質、それから教育、信頼性のことなど、これまでの話題から、思ったことをうかがいたい。
ゲスト 植田実
これほど面白くて、有意義な会議を私は今まであまり知らない。本当に驚いた。中国の企業の方が非常に積極的に発言してくれて、本当にいい会議だと思う。 中国でもLDKという言い方が通用するのだろうか。そこからどういうイメージを浮かべるのかをうかがいたい。日本には4畳半とか、二間とか言うこともあり、広さがイメージできる。中国の方はどういうふうに住宅のイメージをつかんでいるのだろうか。
万科上海 伝志強
LDKを使っている。とはいっても、20平米の部屋はどのぐらい、と聞いても、たぶん多くの人がピンと来ないと思う。 いま中国のプランはほとんど同じパターンになっている。良い間取りを模倣しているのだ。良くないことだと思う。日本はラーメン構造なので、基本的に4枚の壁と4つの柱で、1LDKができるし、4LDKもできる。しかし、中国は違う。構造は全部中に入っているから、リノベーションが簡単にできない 先日、イギリスの新しいマンションに行った。全くLDKなんかを感じない。ただ空間がつながっているだけ、彼らはどういうふうに売っているのか。これからこういう方向に向かうのだろうか。
土谷
スケルトン・インフィル、また間仕切りしない空間のあり方がありうるだろうかということだろうか。いままでの日本の建築は改造・改装しづらかった。一方、変えることを前提とした集合住宅のあり方がずっと議論されている。日本は半分以上が戸建てで個人の所有物だからこそ、変えてこられた。URの考えをおうかがいしたい。
UR都市機構 滝川
日本では100年住宅、200年住宅を念頭に考えている。これを念頭に置かないと、コストをなかなか理解できないのではないかと思う。自分が亡くなれば子どもが受け継ぐ。そうすると、50年単位で変わっていくのでランニングコスト、イニシャルコストで考える必要がある。もう一つ、はじめてものを供給する時にはやはりモデルプランをPRする。二人世帯の時はこういう住まい方ができる、子どもができたらこう、と可能性を提示する。公団時代から、ライフスタイル分析により世代別の住まい方を研究してきた。
ムジ・ネット 川内
無印良品は家全体を一つの空間にして、自由に仕切ることを提案してきている。無印が考える1室空間はマンションのほうがやりやすい。間仕切りせずに売ることができるのではないかと思う。中国は壁式構造だということを知ったが、ラーメン構造でつくって差別化するということもできるのではないだろうか。一室空間にして、簡単に間仕切りして自由に変えられるということは、居住者がライフスタイルの変化に応じて変えていける。
土谷
後から壊すのは大変だが、あらかじめ壊すことを前提とした設備設計の考え方のひとつにスケルトン・インフィルがあると認識している。スケルトンとインフィルをどう繋ぐかの方法が必要だと思う。解決に向かうには、そもそもどういう暮らし方をしたいのかをまず考えなければならない。 次に、水回りの暮らし方について、議論したい。
唐山惠達 蔺志傑
水不足は中国各都市の抱える重大な問題で、浴室衛生物品メーカーとして、私たちはトイレの節水を2つの観点から考えている。ひとつは水を節約すること。便座の水を3リットルで設定する。もうひとつは、どうやって生活用水を一つのシステムで再利用させるかだ。ただ「省く」のではなく、総合的に利用するという観点からも解決案を考えている。 TOTOがつくったスマート便座は、人々の心と体をケアしてくれるとても良い商品だ。恵達も含めて数々の中国企業も研究し続けている。今後、電子スマート製品が著しく発展を見せてくれるだろう。
原
大局的なものの見方は大事だ。日本も東北の大震災が起こって以来、原子力以外で電力をつくる方法を考えなければならない。蓄電やエネルギー流通も最先端の仕組みも生み出さなければならない。日本は待ったなしの状況なので、そこはかなりやれると思う。 一方で、小さなことから暮らし方が変わる可能性があると考えている。トイレが汚い場所から、リビングルームと同じ清潔さを求められ始めていく状況はトイレの形を進歩させて、10年するとたぶん全くいままでと違うトイレとの関係すら生まれるかもしれない。風呂もそうかもしれない。意外と小さなところに大きな可能性が潜んでいるかもしれない。ここはみなさんと一緒に意見交換をしたい。
当代節能置業 張琳
省エネと環境保全技術はいま日本の住宅産業においてどのぐらい取り入れられているのか。コストの問題と省エネの問題のギャップをどう埋めていくのか。断熱もそうだが、省エネや環境保全はただ技術上の問題ではなくてシステムだと思う。上海万博の時に、下水を真水に変える日系企業の処理装置を見た。すごく良さそうだが値段も高そう。その辺の矛盾をどう解決すれば良いのか。教育も必要だと思うが。
LIXIL 小田
東日本震災の後、15%以上節電しなければならなくなったのだが、結果関東26%節電できた。照明も以前は明るすぎたと認識できた。これはひとつの教育だった。もう少し時間をかけてやらなければならないことは、電気の絶対量がどうなるかということと、どう使うかということ。ドイツでは経済発展とともに電気の節約も行ってきて、そして原発もやめることができた。同じことができるかどうかは課題だが、いまの技術なら経済性と両立させることができる。太陽光発電は5年後には半分のコストでやっていけるはずだ。国を挙げて国民に省エネを勧めている。相当すごい勢いで省エネの研究が進んでいる。技術革新、国としての政策、それから教育の三つがあって初めて、エネルギーが本当にミニマムになるような環境になると思う。
華潤置地 高文龍
人のライフスタイルを変えることで省エネを図るやり方は中国にはない。人々のライフスタイルを変えるということではなく、企業の観点、国レベルあるいは政治面で何か支援策があるのかを聞きたい。例えば政府からの補助金とか、優遇対策とか、税制とか、そういう政策を打ち出すことによって企業も進んで省エネ技術、環境保全技術をはかっていくのではないかと思う。企業が進んで技術を利用するように、行政はどのように指導・サポートすべきなのか。日本もヨーロッパも、中国よりもエコ技術は進んでいると思う。成熟した技術はどれくらいの割合で住宅に取り入れられているのか。投資規模、コスト削減をどのように図ってきたのか。
当代節能置業 張琳
結局、消費者がどういう意識を持っているかどうかが、最終的な判断となる。それはまた社会全体の省エネと環境保全の体制構築に関連する。住宅の販売はビジネスである一方、省エネと環境保全は社会責任に関わる問題だ。両方を両立させるために、日本側は何か良い方法があるのか
LIXIL(オブザーバー) 水野
日本のメーカーはかねてより、パッシブコントロールという技術で快適を実現できないかと考えている。涼しい部屋に住むためにはエアコンという手段しかないのか。人の手によって風通しをよくするということばかりではなく、もっと建物そのものが判断してそういう環境をつくってくれないか。太陽や風を一旦電気に変えて快適さを得ようということばかりではなくて、太陽の暖かさ、風の心地よさを直接受けて、もっと快適になっていけないのか。省エネは「少エネ」であるともいえる。いかに少ないエネルギーで快適になっていくかというパッシブコントロールが、いま日本の中でも特に注目され、研究が進んでいる領域である。
野村不動産(オブザーバー) 田辺
すばらしい環境技術があったとしてもコストがかかるものなら、消費者がそのコストを払ってまでも環境性能を買ってくれるどうかということになる。政府が補助金を出してくれるかどうかという問題もある。ハードの問題とコストはトレードオフになる。ただ、できることはあると思う。例えば、各住戸で電気使用量をリアルタイムで把握できるように視覚化し、住人に使用量の抑制を促す仕組みもある。これは、それほどコストはかけずにソフトの仕組みでエネルギー使用量を抑えようとする取り組みで、当社も導入を開始している。民間のビジネスとしてのこうしたソフトに注目した新たな取り組みは多々出てきている。
韓建集団 崔事章
日本の断熱は内断熱なのか、外断熱なのか。
UR都市機構 滝川
中国は外断熱。日本は内断熱。URの研究所では外断熱を研究している。中国の国土は広大なので、地域によって内断熱、外断熱を採用していくことになるのではないか。
土谷
今日はたくさんのキーワードが出た。この研究会は少しずつ理解を進めるということに目的がある。抽象的な議論だとわかりにくいので、内容を細かくして議論できる機会もつくりたいと思う。暮らし方という大きなビジョンとビジネスの上でも着地できることを合わせるようにしたいと思う。
原
住むところを提供する側が議論することが重要だということがよくわかった。やはりこれはアジア全体で、誇りや幸福のことも含めて、おもしろい議論をしたらいいと思う。これは本当にいい最初のステップになればと思う。宿題もたくさん出た。ありがとうございました。
文責=紫牟田伸子