あなたの
近未来ラボ

「カジュアル」を
模索する

タン・ティク・ラム(インドネシア)

建築家取材 | 2015.11.16

アディ・プルノモ

インドネシアの建築界でモダニズムの王道を進んでいると評価されているのがタン・ティク・ラム氏だ。首都ジャカルタから車で2時間、日本でいう横浜のような文化産業に力を入れるバンドンに設計事務所を構えている。住宅建築を中心に扱い、アートが楽しめる家や車やオートバイのコレクションが収まる空間など、今後インドネシアが裕福になるにつれて増えると予想される空間のデザインに多く取り組む。
 彼の作品ではぞれぞれの個室から、庭や廊下に面する小さなプールなどがよく見通せる。タン・ティク・ラム氏自身が「部屋自体は変化しないために、あまり面白くない。しかし自然は常に変化する。雨や風、日差しなどインドネシアでは自然の中で暮らすことに魅力を感じる」と話すように外部とのつながりを重視する。廊下やテラスなどのスペースを広くとることで、施主が南国の気候を感じながらリラックスできる空間を丁寧に設計する。長屋を2軒つなげた彼自身の設計事務所も中庭を取り囲むように部屋が開け放たれている空間だ。
 タン・ティク・ラム氏は著名な建築家タン・チャン・アイ氏を父に持つ。空間の規格や構成に厳格なことで知られ、息子のタン・ティク・ラム氏は自身にその影響を認めつつも「父のフォーマルを崩した空間構成を設計することが自分の特徴」と語る。
 彼の言う「フォーマル」とはインドネシアの家族、生活構成に合わせた機能配置と規格だ。「父の時代は自宅を訪れる客が多く、客間の配置が重要だった。自宅で仕事をすることが多かったし、家族以外の人を自宅に招くことも多かった。しかし現代の家族は自宅と仕事場を完全に分け、自宅に家族以外の人を招くことを避けるようになっている」という。タン・ティク・ラム氏の上の世代では平面配置も左右対称な計画が多かったが、これを崩し「カジュアル」な構成を意識している。「規格についても、部屋の利用者数などから適正な大きさを以前は決めていたが、現在はもっと持ち主の気持ちよさなどの感性に合わせたものを考えている」と自身の設計スタイルを比較する。
 現在は建築家のクライアントは多くが超富裕層に限られているが、「今後はもっと中流層の暮らしを考えるべき」という。家をもっと「カジュアル」にするというスタンスはただ平面を崩すというだけでなく、家の中の楽しみをより個人の感覚に寄り添わせる手法だ。現在はクライアントが富裕層のみに限られているが、中間層の「カジュアル」とは何かを考えていかなくてはいけない。実際に中間層の「カジュアル」とは何かを聞くと「まだわからない」という。首都圏だけでなく、全国で頻繁に起きる洪水被害や、渋滞対策のほうが大きく、これをどう解決するかが中間層にとって先決だからだ。しかし中間層の心地良さを求めた住空間は2、3年後には確実に必要になってくるだろう。マレーシアやタイなど周辺諸国は経済規模の大きさからか、現在その課題に取り組み始めているように思う。建築家がこれからの「家」を考えることで、さまざまな課題に直面する未来の可能性が見えてくるのだろう。

Author: 高橋佳久

H59

H59

BRG house

BRG house

prev

next